介護と仕事を両立する制度ガイド2026|介護離職を防ぐ5つの手

「親が倒れた。会社に相談したいが、どう切り出せばいいか分からない」「忙しい時期なので、休みたいと言いにくい」——介護と仕事の両立に悩む人は、年間10万人が介護離職する時代において決して少数派ではありません。

特に2025年4月施行の改正育児・介護休業法により、企業の義務が大幅に強化されました。知らないまま離職してしまうのは、金銭的にも職業的にも大きな損失です。ケアナギ編集部が、2026年時点で使える制度と、会社への切り出し方を実務目線で整理しました。

介護離職が年間10万人超えの衝撃

厚生労働省の「就業構造基本調査」によれば、介護や看護を理由に離職・転職する人は年間約10万6,000人(2022年調査)。そのうち約8割が正社員で、生涯賃金ベースで1人あたり5,000万円以上の損失に相当します。

離職後の再就職率は低く、60歳以上では正社員復帰率10%以下というデータもあります。さらに離職後の介護はより重く、家族内の役割・収入・介護費用負担のバランスが崩れ、本人の健康悪化・うつ発症率上昇にもつながります。

「離職せずに続ける」ことが、家族全体の最適解であることが多い——これが制度活用を検討する前提です。

2025年4月改正で強化された5つのポイント

2025年4月1日施行の改正育児・介護休業法により、企業の介護両立支援義務が大幅に強化されました。押さえるべき5点は以下です。

1. 介護に直面した労働者への個別周知・意向確認が義務化

労働者が家族の介護に直面した旨を申し出た場合、企業は介護休業制度等について個別に情報提供し、両立支援の意向を確認する義務が生じました(2025年4月〜)。

「会社に言ったら煙たがられるかも」と悩む時代は制度上は終わりです。申し出れば、会社は必ず制度説明と意向確認をする義務があります。

2. 介護休暇の対象拡大

介護休暇(1日単位または時間単位で取得できる休暇)の取得要件から「入社6ヶ月以上」の要件が撤廃され、入社直後でも取得可能になりました。

3. 介護休業の分割取得が引き続き可能

介護休業は対象家族1人につき通算93日、3回まで分割取得が可能。2017年改正で導入された仕組みが2025年も継続。

4. 短時間勤務等の柔軟措置が「介護期間中」もカバー

介護のための短時間勤務・時差出勤・在宅勤務等の措置を、介護休業終了後も継続して利用できるよう義務化。

5. ハラスメント防止措置の強化

介護休業・休暇取得者への嫌がらせ・不利益取扱いに対する企業の防止措置義務が明記されました。


これらは「法律上の権利」であり、会社の恩情ではありません。知らないまま申請しない・退職を選ぶのは、本人にとって最大の機会損失です。

使える制度5つの全体像

制度1|介護休業(通算93日・3分割可)

最大の柱となる制度。対象家族(配偶者・父母・子・兄弟姉妹・祖父母・孫・配偶者の父母)1人につき通算93日、3回まで分割取得できます。

  • 目的:介護体制構築(施設選び・ケアマネ確保・親の生活立て直し)
  • 取得条件:原則、雇用保険被保険者で要介護状態の家族がいること
  • 給付金:介護休業給付金(賃金の67%、ハローワーク経由、手取りベースで約80%相当)
  • 申請時期:原則、休業開始の2週間前まで

公式情報育児・介護休業法について|厚生労働省 / 介護休業給付金の手続き|ハローワーク

93日の使い方: - 第1回(30日):親の入院〜退院後の初期介護体制構築 - 第2回(30日):施設見学〜契約〜入居準備 - 第3回(33日):緊急対応(体調急変・看取り)の予備

公式情報介護休業・介護休暇制度|厚生労働省リーフレット

制度2|介護休暇(年5日・時間単位可)

短期の通院同行・手続き対応に使う休暇。

  • 対象家族1人につき年5日、2人以上なら年10日
  • 1日単位・半日単位・時間単位で取得可能
  • 有給か無給かは会社による(多くは有給でない。ただし近年、有給扱いの企業が増加)
  • 申請は口頭でも可(書面提出を求められるのが一般的)

「今週水曜の午後、親の通院に同行」「月曜の朝、ケアマネ面談」といったスポット用途で柔軟に使える制度。積み重ねで年60日相当の時間確保が可能。

制度3|短時間勤務・時差出勤・在宅勤務

介護期間中(介護休業を取得してもしなくても)、以下の柔軟措置のうち少なくとも1つを会社は提供する義務があります。

  • 短時間勤務制度(1日6時間等)
  • フレックスタイム制度
  • 始業・終業時刻の繰り上げ下げ
  • 在宅勤務制度
  • 介護サービス利用料の補助

3年間・2回以上利用可能が法律上の最低ライン。会社の制度は最低ライン以上であれば良いので、具体的に何が使えるか人事に確認してください。

制度4|所定外労働・時間外労働・深夜業の制限

介護を理由に、以下を請求できる権利があります。

  • 所定外労働(残業)の制限:残業免除、期限の定めなし
  • 時間外労働の制限:月24時間・年150時間を超える残業の免除
  • 深夜業の制限:22時〜5時の労働免除

「残業できないと評価が下がる」という心配はあるものの、これらは法律上の権利であり、申請によって不利益取扱いを受けることは禁止されています。

制度5|介護休業給付金(失業保険からの給付)

介護休業中の経済的支えとなる給付金。

  • 支給額:休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 67%
  • 支給期間:休業日数(最大93日)
  • 申請窓口:ハローワーク(通常、会社が代行手続き)
  • 税金・社会保険料の扱い:非課税、社会保険料は免除にならない点に注意

年収600万円の方が30日の介護休業を取った場合、約33万円の給付が受けられます。

会社への切り出し方|5段階のステップ

「制度はわかったが、会社にどう言い出せばいいか分からない」——この壁で申請を諦める人が多いのが現実です。以下の段階的ステップで臨んでください。

ステップ1|情報収集(自分だけで完結)

  • 自社の就業規則・介護休業規程を確認(社内ポータル・人事に照会)
  • 親の要介護認定の状況・医師の診断書を整理
  • ケアマネジャー・地域包括支援センターで「必要な介護体制」を整理
  • 介護休業・介護休暇で実現したい具体プランを言語化

ステップ2|直属上司に相談(1on1で)

  • 「相談したいことがあります」と事前にアポを取る
  • 「辞めるつもりはない。仕事を続けるために制度を使いたい」と明確に
  • 具体的な期間・頻度・業務への影響軽減策を提示
  • 上司から人事への連絡を依頼

NG:廊下で立ち話で切り出す/メールで唐突に通知/他社員の前で話す

ステップ3|人事面談

  • 正式な制度申請手続きを確認
  • 必要書類(診断書・要介護認定書等)を提出
  • 介護休業給付金の手続きを会社が代行することを確認
  • 会社から個別周知・意向確認を受ける義務があることを念押し(2025年改正で義務化)

ステップ4|業務引継ぎ計画の立案

  • 休業中の業務代行者を明確化
  • 急ぎの案件・長期プロジェクトの扱いを整理
  • 連絡体制(緊急時のみ・定期報告の頻度)を決める
  • 復帰後の役割・評価への影響を人事と確認

ステップ5|社内周知と休業開始

  • チーム・関係部署への通知(範囲と内容は上司と調整)
  • 不在中の連絡先(必要なら個人の連絡先)を伝達
  • 有給休暇の消化タイミング(介護休業前に使い切るか温存するか)

申請を躊躇う3つの壁と対策

壁1|「会社に迷惑をかける」と思ってしまう

事実:年間10万人が離職している問題を、会社も認識しています。辞められる方がはるかに会社にとって痛い。制度は会社と従業員双方の利益のためにあります。

壁2|「上司に嫌がられそう」

対策法律上の権利であり、不利益取扱いは法律違反。上司個人の感情に左右される話ではありません。嫌がる上司がいる場合は、人事・労働組合・労働基準監督署への相談も選択肢。

壁3|「キャリアに響く」

現実:介護休業3回分・計93日は、30〜50代のキャリアに致命的な影響を与えません。むしろ介護離職して空白期間が10年生じる方が圧倒的にキャリア損失。近年は管理職でも介護休業取得が増加しています。

使えるその他の公的支援

ヤングケアラー・ビジネスケアラー支援

2024年度からビジネスケアラー(仕事と介護の両立者)向け相談窓口が全国47都道府県に設置されています。匿名で使えるので、会社に相談する前の整理に。

会社員の介護離職防止サポート

個人事業主・フリーランスの場合

介護休業・給付金は対象外ですが、介護保険のサービスをフル活用してサービス量を増やすことで両立を図ります。

  • ショートステイ(短期入所生活介護、1〜30日の施設宿泊サービス)で平日の集中対応
  • 訪問介護の頻度増
  • デイサービス(通所介護、日中施設に通いサービスを受ける形態)の連日利用

よくある質問(FAQ)

Q. 介護休業給付金の67%は手取りでいくら?

税金がかからず、社会保険料の本人負担分も会社負担が継続するため、手取りベースで通常賃金の約80%となります。

Q. 介護休業中に副業・アルバイトは可能?

原則不可です。介護休業給付金は「介護のため労働できない状態」に対する給付。副業すると給付金が停止されます。

Q. 介護休業93日を使い切ったら、あとは自腹で休むしかない?

93日後は介護休暇(年5日)・短時間勤務・在宅勤務・所定外労働制限などの併用で対応します。介護休業はあくまで「初期体制構築」用と割り切り、長期戦は他の制度で設計してください。

Q. 親の要介護認定がまだ出ていない。介護休業は取れる?

要介護認定書は必須ではなく、医師の診断書でも対応可です。認定申請中でも、要介護状態が明らかであれば介護休業を取得できます。会社の規程により必要書類が異なるので人事に確認を。

Q. 兄弟と分担しているが、会社には「一人で介護している」と言って良い?

嘘をつく必要はありません。「主介護者として中心的に関わっている」と伝えれば十分。分担している場合でも、介護休業・休暇は取得可能です。

ケアナギ編集部コメント

介護離職は、本人・家族・会社・社会のすべてにとって損失です。しかし制度を知らないまま「会社に迷惑」「言い出しにくい」と辞めてしまう人が毎年10万人いる現状は、日本社会の情報格差の象徴とも言えます。

ケアナギ編集部としては、「会社に相談する前に地域包括支援センター(自治体の介護相談窓口、無料)に先に行くこと」を強く推奨します。ケアマネジャー視点で「どの時期にどの制度を使うか」を整理してもらえれば、会社への提案も具体化しやすくなります。全国の地域包括支援センター検索|厚生労働省 から最寄りを探せます。

そして一人で抱え込まないこと。配偶者・兄弟・友人・同僚・地域包括支援センター・労働局——相談できる窓口は複数あります。最初の一歩を踏み出せば、制度と人のネットワークが確実にあなたを支えます。

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