認知症で施設に断られた場合|周辺症状別の受け入れ先と対策
「見学のときは穏やかだったのに、入居前の面談で『他の入居者さんに影響がありそうなので』と断られた」「暴力があることを正直に伝えたら、返事が来なくなった」——認知症の周辺症状(BPSD=Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia、行動・心理症状、徘徊・暴言・不穏・妄想などの周辺症状)で施設を断られた家族は、自分たちを責めがちです。
でも、諦めないでください。BPSDは正しい対応で改善可能な症状であり、症状別に受け入れに強い施設タイプが存在します。ケアナギ編集部が、症状タイプ別の受け入れ先と、再挑戦までの具体ステップを整理しました。
BPSDは「治せる症状」である
認知症の症状は大きく2つに分けられます。
- 中核症状:記憶障害・見当識障害・判断力低下など、脳の障害そのもの
- 周辺症状(BPSD):暴力・徘徊・不潔行為・幻覚・妄想・抑うつなど、中核症状に環境要因・身体状態が重なって現れる二次的症状
施設が断る理由のほとんどはBPSDです。そして、BPSDは薬剤調整・環境調整・ケア技術の工夫で大幅に改善することが医学的に証明されています。
つまり、「今の状態では断られる」だけで、「治療後なら受け入れ可能」という施設は多数あります。「断られた=一生入れない」ではなく「今の症状のままだと入れない」と捉え直すことが、再挑戦の第一歩です。
症状タイプ1|暴力・暴言への対応
受け入れに強い施設タイプ
- 認知症対応型共同生活介護(グループホーム、認知症の方が少人数で共同生活する介護保険施設)の医療連携型:精神科併診体制のあるGH
- 介護医療院:医師常駐、薬剤調整しやすい
- 精神科病院併設型有料老人ホーム:急性期は入院、安定期は入居の連携
- 特養の認知症専門棟:ユニットケア(10人前後の少人数で個別ケアを提供する特養の方式、個室+共用リビングが基本)で個別対応が可能な施設
薬剤調整で改善する例
BPSDの暴力・暴言に対して、医学的エビデンスがある主な介入は以下です。
- 抑肝散(漢方薬):少量でBPSDに効果、副作用少ない
- リスペリドン・クエチアピンなどの少量投与:専門医管理下で
- メマンチン(メマリー)の用量調整:アルツハイマー型認知症の興奮に
- 薬剤整理(ポリファーマシー解消):不要な薬をやめることでBPSDが改善する例も
かかりつけ医から精神科・認知症専門医への紹介を依頼してください。2〜4週間の薬剤調整で「別人のように穏やかになった」という事例は珍しくありません。
環境要因の見直し
暴力・暴言の多くは、本人の「困っている」「怖い」「不快」の表現です。
- 排泄・空腹・痛み・かゆみなど身体的不快感の見落とし
- 見知らぬ環境・人への不安、見当識障害からくる恐怖
- 家族の態度・声かけトーンへの反応
- 睡眠不足・便秘・脱水などの身体リズム乱れ
主治医・看護師・ケアマネに「暴力が出るタイミングと前後の状況」を記録して渡すと、原因特定が早まります。
症状タイプ2|徘徊・離設リスクへの対応
受け入れに強い施設タイプ
- グループホーム:少人数ケアで個別対応、見守り密度が高い
- サービス付き高齢者向け住宅の認知症対応型:見守りセンサー・ドアセンサー完備
- 特養の認知症専門棟:ユニット型でフロアが閉鎖管理
- GPS連携のある在宅系サービス:在宅継続の選択肢も
現実的な対策
- 施設見学時に「徘徊対応の仕組み」を聞く:ドアロック、見守りカメラ、入口センサー、職員配置
- 「離設したことはあるか、その後どう対応したか」を率直に質問
- 本人の徘徊パターン(時間帯・きっかけ・行き先)を施設に共有
- GPSタグ・位置情報シューズなどの併用可否
徘徊は「行きたい場所・会いたい人」への意思表現でもあります。拘束的な対応ではなく、安全な範囲で歩ける環境を提供する施設を選びましょう。
症状タイプ3|拒食・異食への対応
受け入れに強い施設タイプ
- 介護医療院:経管栄養への切り替えも選択肢
- 看取り対応の特養・有料老人ホーム:終末期の食思不振にも対応
- 歯科連携のある施設:義歯不適合や嚥下機能低下に対応
- 管理栄養士常駐施設:個別の食形態調整が可能
拒食の原因を探る
拒食は単なる好き嫌いではなく、身体的・心理的原因があります。
- 口腔内の問題:虫歯・口内炎・義歯不適合・口腔乾燥
- 嚥下機能の低下:誤嚥への恐怖、食形態が合わない
- 消化器疾患:胃炎・便秘・胆石など
- 薬剤の副作用:食欲低下を起こす薬剤の見直し
- うつ症状:認知症に伴ううつで食欲減退
- 環境の不快:食事時間・場所・メンバーへの違和感
歯科往診・精神科往診・薬剤見直しで食欲が戻るケースは多数あります。拒食が続くと断られやすくなるため、受け入れ施設が決まる前に原因を絞り込んでおきたいところです。
症状タイプ4|不潔行為(弄便・失禁)への対応
受け入れに強い施設タイプ
- グループホーム:少人数ケアで排泄支援が丁寧
- 特養のユニット型:個室で尊厳を保ちつつケア可能
- 排泄ケア強化施設:おむつフィッターや排泄ケア研修を重視
対策
不潔行為(便をいじる、壁に塗る、尿失禁を隠すなど)は、本人の認知機能だけでなく介護者の対応にも大きく左右されます。
- 排泄リズムの記録(朝食後・夕食後など)
- 早めのトイレ誘導、決まった時間での排泄習慣化
- おむつの種類・サイズ・吸収力の見直し
- 便秘への対応(水分・食物繊維・緩下剤)
- 恥ずかしさへの配慮(個室対応、同性介助)
「不潔行為=受け入れ不可」ではなく、「排泄ケアに強い施設なら対応可能」と考えてください。
症状タイプ5|幻覚・妄想への対応
受け入れに強い施設タイプ
- 介護医療院・精神科併設型:薬物調整が必要なケース
- レビー小体型認知症専門対応施設:幻視は主にレビー小体型
- 認知症専門外来連携施設:診断確定で対応が大きく変わる
対策
幻覚・妄想は認知症のタイプによって対応が異なります。
- レビー小体型認知症:幻視が特徴。抗精神病薬で悪化する可能性があり、薬剤選択が重要
- アルツハイマー型:物盗られ妄想・嫉妬妄想が多い
- 前頭側頭型認知症:脱抑制による衝動行為
認知症のタイプ診断(CT/MRI、脳血流SPECT、専門医診察)を確定させると、薬剤選択と施設選びの精度が一気に上がります。
再挑戦までの具体ステップ
断られたあとに家族がとるべき行動を、時系列で整理します。
- 診断の見直し:認知症専門医(精神科・神経内科・老年科)で診断を確定。タイプ・進行度・合併症を整理
- 薬剤調整:2〜4週間のトライアル。抑肝散・少量抗精神病薬・ドネペジル用量調整など
- BPSD日記をつける:症状の頻度・時間帯・きっかけ・対応を記録
- ケアマネと受け入れ施設リスト再作成:症状タイプに合う施設を絞る
- 電話で事前審査:BPSDの具体情報を伝えて、受け入れ可否を確認してから見学
- ショートステイで試験入居:短期利用で相性を確認、そのまま長期入居につなぐ
施設側は「情報が少ないから断る」ことが多く、「具体情報と治療経過を伝えれば受け入れる」という経験則があります。診断書・BPSD記録・処方変更履歴を揃えて交渉してください。
精神科入院という選択肢
BPSDが重度で在宅・施設のどちらも困難な場合、認知症専門の精神科病棟(認知症に伴うBPSDの集中的な薬物調整を行う専門の入院病棟)での2〜3ヶ月入院が選択肢になります。
- 薬剤の集中調整でBPSDを安定化
- 入院中に次の受け入れ施設を探せる
- 精神科ソーシャルワーカーが施設探しをサポート
- 病院からの紹介なら受け入れハードルが下がる施設も多い
「精神科入院=恥ずかしい」というイメージを持つ家族もいますが、BPSDの薬物調整には専門病棟が最適で、一時避難的に使うことはまったく問題ありません。
実例|再挑戦で入居できた家族
Eさん(79歳・要介護4・アルツハイマー型認知症・暴力あり)
- 初回申込:住宅型有料老人ホーム → 暴力歴で断られ
- 2回目:グループホーム → 見学時に本人が興奮して断られ
- 家族の行動:
- 認知症専門医で再診断、抑肝散+少量リスペリドン開始
- 3週間で興奮度が明らかに改善、夜間睡眠も安定
- 処方変更履歴と主治医からの紹介状を持参
- 介護医療院に申込、ショートステイ14日を2回利用
- 2ヶ月後に正式入居
- 現在:穏やかに過ごし、家族の面会を喜ぶように
ポイントは、「今の状態のまま施設を探し続ける」のではなく、「症状を改善してから再挑戦する」戦略に切り替えたこと。薬剤調整とショート試験入居という2つの武器を使いました。
家族に伝えたいこと
認知症の症状で施設に断られると、「親がそこまで悪くなったのか」「自分のケアが足りないのか」と自責の念に苦しみます。
でも、BPSDは病気の症状であって、親御さんの本質でもあなたの努力不足でもありません。正しい治療とケアで、別人のように穏やかに戻ることはよくあります。認知症専門医・ケアマネ・地域包括を巻き込み、医療と介護の連携で道を開いてください。
諦めないでください。道は必ずあります。
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